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映画「盲山(Blind Mountain)」

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映画「盲山(Blind Mountain)」
監督:李楊(リー・ヤン)
出演:黄璐、楊幼安、賀運楽、張玉玲 ほか
公開:2007.11.23

この映画の監督である李楊(リー・ヤン)監督は、ヤミ炭鉱問題を描いた
前作「盲井」で、2003年ベルリン国際映画祭銀熊賞、続いてフランスの
ドーヴィル・アジア映画祭で最優秀作品賞ほか5つの賞を受け、華々しい
デビューを果たした。

しかし、「盲井」公開により、世界各国に中国の問題を内部告発する形と
なってしまい、怒った中国当局は、李楊監督に対して、3年間にわたる
中国国内の上映・制作禁止処分という罰を下した。

謹慎処分が開け、ローコストの制作費で作った二作目が、「盲山」。
3年間の謹慎処分の間、李楊監督が温めていたテーマが女性人身売買
について。
人身売買の取材をし、体験談を集め、何件もの実話を元に描いたのが
この「盲山なのである。

あらすじは…
騙されて農村に連れてこられた女性が主人公。
自分が農村の独身男性がいる家に身売りされたことを知って、何度も
逃走を試みるが、上手く行かない…。
部屋に閉じこめられ、強姦され、暴力を振るわれ、子どもが出来てしまう。
村にいる女性のほとんどは、騙されて連れてこられたという。
そのように連れてこられた女性たちは、跡取りの男の子を産むためだけに
存在し、奴隷ぐらいにしかみられていない。
皆、逃げても逃げても連れ戻され、暴力を振るわれるうちに、自分の人生
を諦めてしまっている…。
しかし、主人公の女性だけは諦めきれず、ついに逃げ出す機会を手に
入れるが…。

中国農村部の実態が生々しく描き出されていて、とことん、やり切れなく
なる映画であった…。
この映画を観た後に、ラスト・シーンは中国国内版と海外版で違いがある
ことを知った。
元々のラスト・シーンはショッキングで、中国の検閲の許可が下りない
ため、中国国内版ではラスト・シーンを修正したのだそうだ。
(ラスト・シーン以外でも、中国検閲側に指示されカットした場面は40ヶ所
以上あるらしいが…。)
私が観たのは中国国内版。
ラストのショッキングなシーンはカットされていた。
海外版のラスト・シーンを観てしまったら、もっとやり切れなかっただろう。

中国の貧困に追いつめられている農村部では、様々な問題が起こって
いる。
まずは、男女比の不均衡。
農村部では、男の子は将来、跡取りとなり、農業の大切な働き手となる
ので重要視されているが、女の子は将来、嫁に出てしまうし、力仕事の
役に立たないと思われ、間引きされてしまう…。
妊娠中に女の子だと判れば中絶したり、産んでも籍に入れなかったり、
孤児院に捨てたりしているそうだ。
そんなことから、男女比の不均衡が生まれ、深刻な嫁不足に繋がり、
不正な人身売買で嫁を買う…という現実になっている。

国家人口・計画生育委員会は、“新農村新家庭計画”や“女の子を大事
にしよう”といった活動の展開している。
農村部に行くと、“男の子も女の子も平等”、“女の子を産もう”、“女の子
にも男の子と同じ教育を”といったスローガンが、あちこちの壁に大きく
書かれている。
スローガンをあちこちに書くだけでは、なかなかこの活動の意味は浸透
しないだろうが…。

そして、人身売買問題…。
これは、男女比の不均衡から起こってきた問題である。
お金の欲しい農民が、跡取りを産む嫁が欲しいという農民に、娘を売る。
売るのは親であったり、親戚であったりするが、お金のためなら…と、
自分の娘や親戚の娘を、約7000元(約10万円)で売ってしまうところが
悲しい。
売られた先で大切に扱われるならまだしも、監禁・暴力で黙らせてしまう
という扱われ方…。
一体、売り買いされた女性の人権はどこに…?

今日はクリスマス・イブ。
クリスマス気分で楽しく盛り上がりたいところだが、私が今住んでいる
この中国で、今もどこかで悲しんでいる女性や女の子がいることを忘れ
たくないものである…。

私はクリスチャンではないけれど、そして世界中の皆が皆、幸せに暮ら
せるようになるということは難しいことだけれども、それに幸せの定義
なんて、それこそ難しいけれど、せめて祈るぐらいはしたいと思う。

Sleep in heavenly peace
Sleep in heavenly peace…
by yuzitj | 2007-12-24 06:00 | 映画
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